そして誰も居なくなった
天井からどんどん音がする。
のっちさんは団地に住んでいる。と言っても都市圏で良くあるような10ン階建てや横10メートルぐらいの巨大な団地じゃ無い。縦5階、横4宅のコンパクトな社宅。と言っても築40年近く。洗面台と洗濯機置き場(防水パン)と2~3部屋があればいい。
そんな社宅からもどんどん人が消えていく。引っ越し。転勤や退職だけで無く、近所に新しく家やマンションを買う人も。社宅もどんどんすかすかになる。
転勤前の社宅は凄かった。広い代わりに洗面台や洗濯機置き場は無い。洗面台の代わりに台所で歯磨きや洗顔をし*1、風呂場に洗濯機の排水を流せるように洗濯機をブロックで底上げした*2。
当初、前の社宅にはのっちさんの入り口側で6宅ぐらいあった。家族連れ、中年カップル、のっちさんと同じ一人暮らし。様々な家族。何年かに一度家族が変わる。そして、消えていく。6家族、4家族・・・
春の初め、団地の共益費の当番セットを次の担当に渡そうとしたとき、
「ごめん、貴女以外居なくなるから、引き続きやって」
その年は2家族入ってきた。途中で1家族消えたが。
そして、その時が来た。のっちさんの転勤。
本来の転勤が公表される前に残った1家族に、転勤の挨拶と一緒に当番セットを渡した。
「すみません、わたしも出ていくことになりました」
住人ははあ、わかりましたと受けとった。
彼はまだそのただっ広い団地に1人で暮らしているだろうか。
今日も天井上で騒ぐ音がする。人が居るのはそれだけでいい気持ちになる。